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熊本地方裁判所八代支部 昭和32年(ワ)83号 判決

原告 米田光義

右訴訟代理人弁護士 浜韓雄

右訴訟復代理人弁護士 桑原純熙

原告 隅川芳太郎

右訴訟代理人弁護士 桑原純熙

被告 西由起子

〈外三名〉

右三名特別代理人 田上シズ子

同 秋田伊徳

右訴訟代理人(八三号事件については復訴訟代理人)弁護士 山本茂雄

主文

一、原告米田光義の第一次の請求につき、被告美能田一敏は原告に対し金三〇万円及びこれに対する昭和二八年一月一日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告米田光義のその余の第一次の請求及び原告隅川芳太郎の第一次の請求を棄却する。

三、原告米田光義の予備的請求及び原告隅川芳太郎の予備的請求を却下する。

四、訴訟費用中、原告米田光義と被告美能田一敏との間に生じたものは被告美能田一敏の負担とし、その余はこれを二分しその一を原告米田光義の負担その余を原告隅川芳太郎の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

被告美能田一敏は原告米田光義の主張事実を自白したものと看做されるところ、同原告の主張事実によるとその請求は理由がある。

つぎに、原告両名の被告西由起子、西賢二郎、西フサ子、西佐喜夫に対する請求について考察する。

原告等が、仮りに右被告四名の被相続人訴外亡西秀雄にその主張するが如き債権を有していたとしても、秀雄は死亡する前既にその権利義務一切をあげて合資会社丸西呉服店に譲渡し、同会社がこれを引き継いでいたことは、原告等自ら主張するところであるから、秀雄が死亡したからといつて被告等は相続により右債務を承継するものではない。すると、右被告等に対する原告両名の請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

最後に被告秋田伊徳に対する原告両名の請求について判断する。

同被告、まづは原告米田光義の第一次の訴は、その目的が不特定であるから却下すべきであると主張するけれども、同原告の主張に照すと、請求は優に特定されているから、右主張は採用しない。

そこで、原告等の同被告に対する各請求の当否につき検討を進めることとになるわけであるが、前記秀雄が仮りに原告等の主張するような債務を負担し、その後にいたり合資会社丸西呉服店が右債務を引き受けた事実があつたとしても、被告秋田伊徳が昭和二九年九月に更に右会社と重畳して債務引受を為した事実が認められないならば、この点から原告等の同被告に対する請求は棄却を免れないので、秀雄に対する貸金債権の有無等の点は暫くおき、まづ被告秋田伊徳の債務引受の点について考えるに、証人隅川芳太郎、飯田直、岡川竹次郎の各証言、成立に争いのない第五号証だけで右事実を認定し難く、その他本件全証拠によつても被告秋田伊徳の債務引受事実を認めることは困難である。右被告に対する原告等の第一次の請求の理由のないことは、その他の点につき判断するまでもない。

原告米田光義の予備的請求につき、被告秋田伊徳は、第一次の請求とその基礎を異にするから不適法であると主張するが、相手方の提出した防禦方法を是認し、相手方の主張事実を理由に新請求を予備的に追加する場合は別として、訴訟係属後予備的に請求を追加するには、第一次の請求とその基礎を同一にしなければならないけれども、訴提起の当初から請求を予備的に併合する場合は、請求の基礎の同一を必要としない。何となれば、同一の原告が当初から併合訴訟を提起する場合は、被告としては各別に訴えられるより手数が省けて便宜であるし、訴訟の遅延や防禦の困難を考慮する必要もないからである。

従つて、同被告の主張する理由によつて、原告米田光義の予備的請求を却下することは出来ないけれども、原告隅川芳太郎の前記被告に対する予備的請求をも含めて、不適法と認めてこれ等を却下しなければならない結論においては、当裁判所も全く同意見である。以下その理由を述べる。

抑々同一の原告が同一の被告に対し、法律上論理的に両立しえない数個の請求を併合して主張する所謂予備的請求はその性質上第一次の請求の理由のないことを前提とし、いいかえれば第一次の請求の理由ありとして認容されることを解除条件として、予備的に第二の請求の審判を求めるもので、従つて第一次の請求につき審判することは、同時に予備的請求の前提要件について審判するわけであつて、かような申立を認めても予備的に結合された申立の不安定を来さないから、このような請求の方式が認められるわけである。従てそのためには第二次の請求は第一次の請求と法律上論理的に両立しえない関係にあることを必要とする。

然るに、被告秋田伊徳が合資会社丸西呉服店の債務を同会社に代つて免責的に引き受けたことを第一次の請求原因とした上で、第一次の請求が認められない場合にそなえ、予備的に、同被告が右会社から別紙物件目録記載物件の譲渡を受けた行為を詐害行為として取消を求めるのであるならば、予備的請求として取り扱う余地があろうけれども、同被告が右会社と重畳的になした債務引受を第一次の請求原因とし、その代償とする別紙物件目録記載物件の譲渡行為を詐害行為としてその取消を求める原告等の本件予備的請求は予備的請求としての前記要件を欠くものといわなければならない。何となれば被告秋田伊徳が合資会社丸西呉服店と重畳して同会社の債務を引き受けたとしても、同会社の消極的財産がそれだけ減少するわけのものではなく、従つて同被告の重畳的債務引受を代償とする前記物件の譲渡行為は債務引受が認められようが、認められまいが、それとは無関係に詐害行為となりうる可能性があるのであつて、同被告の重畳的債務引受と何等両立しえない関係にあるとは認められないからである。

従つて原告等の本件予備的申立は第一次請求の審理終了を条件とする申立にして、徒らに訴訟を不安定ならしめる不適法の申立として却下せざるを得ないので、その本案の当否について検討するまでもない。

そこで、原告米田光義の被告美能田一敏に対する請求のみ認めてその余の原告両名の第一次の請求を棄却し、更に原告等の各予備的請求を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 田畑常彦)

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